「評価も採用も見直さないと……」で止まる人事制度プロジェクトへ 論点を整理しプロジェクトを動かす5つのフェーズ

記事
鈴木 克弥

「現場スタッフの定着と育成のために、キャリアマップを作りたい」
「しかし、いざ検討を始めると『評価制度も変えないと』『採用の打ち出しから見直すべきでは?』と論点がどんどん広がり、プロジェクトが止まってしまった……」

とある企業の人事ご担当者から、こうしたお悩みを伺いました。

最初は数名の担当者で意気揚々とスタートしたものの、考えるべきことが多すぎて膠着状態に陥ってしまうケースは珍しくありません。
あなたの会社でも、似たような議論が「検討中」のまま宙に浮いていませんか?

まずは、現場のキャリアマップや育成制度を実効性のある仕組みとして社内に実装・運用していくためには何が必要なのかを丁寧に考えていく必要があります。

今回は、ある企業で実際にあった「現場の販売スタッフ」のキャリア設計プロジェクトの事例を交えながら、PMの視点で解説していきます。

数ヶ月検討しても進まない。「方向性」と「運用設計」の壁

その企業では、事業拡大に伴って現場スタッフが増加する一方で、その働き方やキャリアが制度として整理しきれていないという課題を抱えていました。

このような設計プロジェクトが滞っている多くの企業で共通して起きていることを、今回の事例を参考に、次のような「4つの壁」にまとめました。

1. 「どこまでやるか」の範囲が果てしなく広がる壁

話し合いを始めた途端、
「そもそもこの職種の定義ってなんだっけ?」
「いや、評価制度や給与テーブルまで連動させないと意味がないのでは?」
「採用の募集要項も変えなきゃ……」
と、議論のスコープが勝手に膨れ上がっていきます。

 結果として、どこから手をつければいいか分からなくなり、プロジェクトの全体像が見えなくなってしまうのです。

2. 「現場のリアルな実態」が見えていない壁

デスクの上で綺麗なキャリアステップ図を作ってみたものの、いざ現場のマネージャーやスタッフに落とし込むと、
「うちの現場の業務実態と噛み合っていない」
「販売実績だけ評価されても、売場を整える裏の努力が報われない」
などの不満や乖離が生まれます。

 理想の構造と、現場の「生身の課題(期待値のズレや情報の届きにくさ)」が綺麗にリンクしていないパターンです。

3. 「誰を巻き込み、いつ決めるか」の意思決定ルートが曖昧な壁

「この制度は誰の承認が必要なんだっけ?」
「役員会にはどのタイミングで持っていくべき?」
といった、社内の利害調整や意思決定のプロセスが明確になっていないケースです。

 関係者が増えれば増えるほど意見が割れ、誰も責任を取れないまま、会議だけがダラダラと繰り返されてしまうことになります。

4. 「作って終わり」になってしまう壁

一番恐ろしいのは、時間と労力をかけて立派なキャリアマップや育成ガイドの「資料」が完成した瞬間に、プロジェクト関係者が燃え尽きてしまうことです。
それを「どうやって日常の評価や採用説明、定期的な面談に落とし込むか」という運用設計が抜け落ちているため、結局誰も使われないもったいないことが起きてしまいます。

このように、皆さんも「方向性はある程度見えているが、論点が広がりすぎて前に進めるための設計ができていない」状態になっていませんか?

「方向性はある」のに進まないとき、PMはどう動くべきか?

「現場をどうにかしたいという想いや、大まかな方向性は見えている。なのに、プロジェクトとして前に進む設計ができていない……」
こうした停滞期に直面したとき、PMは単に「綺麗な資料やスケジュールを作る人」であってはなりません。

物事を無理なく前に動かすために、プロのPMは次のようなステップで構造を整理・再構築していきます。

Step 1. 全てを動かさず、まず「何からするか」を決める

論点が多すぎて動かないときは、すべてを同時に解決しようとするのをやめます。 

「いきなり評価制度や全社の仕組みまで変えようとせず、まずは目の前の成長基盤と育成プランの整備に絞る」といったように、優先順位を明確にしてスコープを一旦スリム化する
そして、「いつまでに何をやり、その後にどこを拡張するか」というフェーズの切り分け(ロードマップ化)を先に行います。

Step 2. 「成果物」ではなく「運用」から逆算して設計する

「キャリアマップという絵を描くこと」をゴールにせず、「採用 → 育成 → 評価 → 現場での運用」という一連のサイクルがどう回るかを逆算して定義します。 

育成ガイドやチェックリストを作るだけでなく、「誰が、どのタイミングでそれを使うのか」「テスト運用期間をどう設け、現場のフィードバックをどう回収して改善するか」という、実務に落とし込むための運用フローをセットで構築します。

Step 3. 経営層から現場まで「誰をいつ巻き込むか」をコントロールする

社内のプロジェクトが止まる大きな原因は、利害関係者の巻き込み方や、意思決定のタイミングが曖昧だからです。 

PMは、プロジェクトの初期段階から「誰に、いつ、何を確認し、どの段階で承認を取るべきか」という合意形成のルート(誰をいつ巻き込むか)をデザインします。
役員向けの説明資料や、現場リーダー向けの納得感のある伝え方を整理し、組織全体の「決めるべき瞬間」をコントロールします。

【実例】絡み合った論点を「5つのフェーズ」に整理し、実行へ導く

実際に、ある企業で「現場スタッフのキャリア設計プロジェクト」が数ヶ月間停滞していたケースでは、PMが介入し、上述のステップに沿ってプロジェクト全体を以下の5つのフェーズに切り分けました

Phase1:現状整理・論点整理

 「そもそもなぜ作るのか」という目的を改めて言語化し、「いきなり役割を拡大するのではなく、まずは育成基盤を作る」という方針の合意形成を行いました。

Phase2:設計

現場での行動基準を具体化しつつ、役員向け・採用担当者向けの資料を作成し、社内の意思決定ルートに沿って合意形成を進めました。

Phase3:成果物作成

キャリアマップや育成ガイドの形を整えるだけでなく、「テスト運用を誰でどう行うか」という運用設計と、テスト人材へのアプローチを行いました。

Phase4:テスト運用

いきなり全社展開せず、一部の現場メンバーで実際にガイドを使用し、意見収集と改善を実施しました。

Phase5:改善・全体展開

テスト運用でのフィードバックを反映させた上で、現場全員への説明会を実施し、日常業務への浸透施策をスタートさせました。

このように、膨大なタスクを「いつまでに、何を決め、どう運用するか」という具体的なフェーズに切り分けることで、長期間止まっていたプロジェクトが確実に実行・運用へと動き出したのです。

まとめ:人事制度は「作る」ことではなく「回す」ことから始まる

キャリアマップや育成制度の構築は、「わかりやすい資料が完成した日」がゴールではない……そうわかっていても、やりきった気持ちになってしまいますよね。
実際には、それが現場の評価、育成、採用説明、そして日々の業務や定例会に接続され、運用が回り始めた時が本当のスタートです。

「社内で議論はしているが、論点が広がりすぎて前に進まない」
「方向性はあるのに、どう制度として着地させ、社内を巻き込めばいいか分からない」

もし今、あなたのプロジェクトがそんな「検討中の沼」にハマっているのだとしたら、足りないのはメンバーのやる気でも、アイデアの不足でもありません。
絡み合った論点を綺麗に整理し、実行から運用までのロードマップを引く「推進の仕組み(PM視点)」です。


「どうしても社内だけで推進していくのは難しそう……」という方は、確実に実行・運用へと導く”第三者のPM”をチームに迎え入れることを検討してみてはいかがでしょうか。
すべてを自社だけで抱え込まず、客観的な視点でプロジェクトを力強く前に進めるプロの力を借りてみることも、停滞を打破する大きな一歩になるはずです。

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執筆者

鈴木 克弥

鈴木 克弥

PMO事業本部 第一PMOグループ グループマネージャー

2024年入社。自社PMツール「CheckBack」の責任者としてsaas事業の成長をけん引したのち、PMO事業本部 第一PMOグループ グループマネージャーに就任。
マーケティングに関するプロジェクトを中心に、業種・業界問わず多くのプロジェクトの進行を担う。

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